Project.05

ドイツのものづくり基準を、中国で実現させる挑戦。

新規カーメーカーから受注を獲得するためには、工場の管理体制が得意先の要求を満足していることを証明するため、監査に合格する必要がある。当社の天津工場(中国)が初めてダイムラーからの監査を受けることになったとき、対応に尽力したのは入社4年目の西尾をはじめとする若手スタッフたちだった。

第一回目の監査。
評価シートはほとんどが赤。

ダイムラーのブレーキキャリパーの生産を行うには、VDA(ドイツ自動車工業会)の審査基準をクリアしなくてはならない。中国・天津工場生産管理責任者の西尾は、VDAに関する書籍や資料を読みあさり、監査に向けた準備を進めた。

第一回目の監査の日。ダイムラーの監査員が工場を訪れ、全部署の現場スタッフと管理体制について細かくチェックを行う。「この作業を説明する資料は?」「品質評価はどんな基準になっているか?」

VDAの評価シートは、基準を満たした項目は緑、そうでない項目は赤でマークされる。監査終了後に西尾に手渡されたのは、ほとんどの項目が赤く塗られた評価シート。トヨタ自動車など日本国内基準の監査は何度も受けてきたが、勝手の違う部分が多かった。VDAの基準、ダイムラー独自の流儀、中国の常識。これらをすべて理解し、自社の生産体制が高いレベルでクリアしていることを実証しなくてはならない。天津工場のVDA監査プロジェクトがここから本格的にスタートした。

合格に向け、
日本と中国のリソースを総動員する。

不合格の原因は決して、国内基準の管理体制が甘いからではない。普段から高いレベルで行っている業務内容を、中国の現場スタッフがVDA監査のフォーマットに合わせた形でうまく説明することができなかったのだ。

西尾は日本の品質管理スタッフに応援を要請し、天津工場の各部署の作業工程をすべて分解。品質管理の基準・方法・結果を整理し、実際に現場で作業を目視した。高レベルの品質管理が実際に運用されていることを確かめるためだ。

次に、ドイツ語・英語・中国語に堪能な専門家を日本や中国から呼び集め、各言語の通訳を増員。そして本番さながらの想定質問と想定回答、膨大なボリュームの想定資料を用意し、社内監査を繰り返し行った。これによって現場スタッフは、VDA監査のフォーマットを深く理解することができたのだ。
社内監査を重ねるなかで、回答や資料が本当に正しいのか、確認が必要な場合も多々あった。そんなときにダイムラーとやりとりをしたのは、営業の芝原だった。彼はただ正解かどうかを聞くのではなく、「我々はこう思うからこんな運用をしている」と明確に伝えることを重視した。なぜなら、監査は解の答え合わせではなく、過程を判定するもの。双方の意図が合致しているか丁寧に確認を繰り返したことで、対策がクリアになっていったのだ。地道な努力が結実し、オールグリーンのVDA評価シートを手に入れることができた。

事務系スタッフが
ものづくりの仕組みを変えた。

今回、天津工場がVDA監査をクリアしたことで、アドヴィックスの信頼性は大幅に上がった。これまで取引がなかったカーメーカーからブレーキキャリパーの注文が相次いだ。さらにこのプロジェクトは、天津工場に別の価値をもたらした。西尾や芝原といった事務系スタッフが現場を先導し、品質管理体制を整理してスタッフへの教育まで行うことで、従来のフローの見直しや、業務資料の体系化の重要性を共通認識として持つことができた。

これによって、今後、あらゆるカーメーカーの監査に対して、現場スタッフだけで対応できる。これは大きな武器となる。